ドイツ出身の発達心理学者 ポール・バルテスという方は(1)人間はどの年代でも喪失と獲得がありつつ発達をしているということを提唱して知られています。
その中で(2)「高齢者が目標調整、変更しながら、今ある身体的・認知的資源を使い、少しでも喪失以前の状態に近づけていく」選択最適化補償理論というのがあるそうです。
残っている能力を活かしつつ衰えた部分リカバリーして問題解決していくというものです。
(3)例えば、これは実際にポーランドのピアニスト ルービンシュタインさん89歳まで現役で活躍した方の話(3)。
現役で活躍するための工夫として、たくさん曲を覚えられなくなっているので
演奏する曲数を減らし、
1曲にかける練習量を増やして曲の精度を上げてみたり、
早いテンポに対応出来ないところは音の強弱や遅テンポの差を大きくつけて目立たせないように工夫していたらしいです。
若さに勝てない部分をテクニック、見せ方で補う方法です。
そのやり方でも十分人を感動させる素晴らしい演奏は出来るんですよね。
高齢になっても自分の能力を活かしながら社会で活躍できることがあるという良い例かと思います。
よく考えると研究者や芸術家、政治家の中には高齢と思われる年代でもまだまだ現役で活躍されていることもありますよね。
そういった方達は結晶性知能を駆使して現役でバリバリ仕事をこなしてられてると思うと勇気が出ますね。
ところでせっかく備わっている結晶性知能なので大事に維持していきたいところ。
どうやってその能力を維持・強化すればよいのか?
前回の記事で結晶性知能というのは衰えにくいというデータは出ているとお話しました。
ですが年を取れば誰でももれなく知能が発達するわけでもないんです。
結晶性知能は、過去の経験や知識を元に思考し問題解決するべく知恵を生み出す能力ですが、
高齢者を対象とした知恵の獲得研究の結果ではかなり個人差があること(4)がわかりました。
知恵を獲得するためにはあることをしている人としていない人の差が歴然とあったようです。
そのあることとは、
(5)白百合女子大学 鈴木忠 氏のお話に答えがありました。
「人が英知を発揮するには他者との対話+内省、自己の内なる他者との対話、他者視点と自己視点を突き合わせることが大切」ということなんです。
(6)ポール・バルテス氏の研究したグループで行った「人生や人間存在に関する複雑な問題に対して、適切な考えを示すことのできる能力」の実験で、ある問題を2人で話し合った後にわざとそれぞれ1人になって5分間内省する時間を設けたグループが一番得点が高くなったそうです。
たった5分ですが1人で考えて客観的な視点を持った自問自答(=内省)が自分の英知や知恵の能力を向上させると結論づけていて内省の大切さを説いていました。
他者の視点を自分の中に取り入れて自分の視点と比較しつつ客観的に振り返るところから
気づきが生まれる。それが英知、知恵の獲得につながっていく。
多様な考え方を取り入れるには時に迷い自己矛盾も感じることもあろう。
矛盾が解消されるには時間もかかり人生経験や意識改革も必要なこともあるけど、それを腑に落ちるまで自問自答することをやめないでおく。
この思考の深堀りが自分を成長させてくれる、ひいては結晶性知能の向上に繋がっていくんだろうと思います。
内省は人間ならではの尊い行為。
高齢になっても衰えないもの。
となると高齢になっても自己成長し続けていけるのでは?
これは夢が広がりますね!
さて、今まで結晶性知能の可能性についてお話してきましたが、記憶力を保持する流動性知能の衰え、これについては全く希望は持てないんでしょうか?
次は結晶性知能を味方にして続ける成長3で記憶力への挑戦をしている方のお話をご紹介します。
参考:
(1)
(2)仙台心理カウンセリング HP SOC理論|選択的最適化理論 バルテス https://sendai-shinri.com/2374/
(3)幸せな人生のためのヒント ~生涯発達心理学への誘い https://life-shift.net/talks/happiness/
(4)教育心理学年報第57集日本教育心理学会公開シンポジウム 「加齢に伴い向上・維持する能力を発掘する」https://www.jstage.jst.go.jp/article/arepj/57/0/57_329/_pdf/-char/ja
(5)(6)第 1 回アクティブ・ラーニング研究会(理論編)報告 ゆらぎとしての発達と学習 白百合女子大学教授 鈴木 忠 https://www.daito.ac.jp/cr_att/0011/40025_300242_010.pdf