(私とは何か 「個人」から「分人」へ 平野啓一郎 講談社)
人と接触する時に人はいろんな顔を持っている。
これよく知られてますよね。
人と接するごとに、また環境や役割によっても無意識に切り替えてやってるかと思います。
その中でも上手くいくこともあるし、上手くいかないこともある。
上手くいかなければ、自分が悪かったところを探し始めてついネガティブな思考になったりもします。
この時期は異動や引っ越しや環境も変わるので悩みが増えて気分もしんどくなる時あろうかと思います。
そこで作家の平野啓一郎さんが提唱する「分人主義」という考え方をご紹介したいと思います。
「分人」とは、人間は自分の中に色んな自分に分かれた集合体であるという考え方で
心理学でも人間はいくつもの仮面(ペルソナ、外用に見せる自分の姿)を持っているという考え方はよく知られている話ですが、
それとは少し違う点があります。(ちなみに「分人」という言葉は平野さんが考えた造語です。)
仮面の考え方は生涯変わらない「本当の自分」がベースにあった上で仮の自分をその場面場面で見せているという考え方に対し、
分人は人に見せている自分も見せてない自分も
”どっちも「本当」なんじゃないのか?”
としていて、
”分人はすべて、「本当の自分」である。”
”私たちは、多種多様な分人の集合体として、存在している。”
”分人は、自分で勝手に生み出す人格ではなく、常に、環境や対人関係の中で形成される”
”混ざり気のない、純真無垢な自己など存在しないのである。”
”厳密に考えれば、公私にわたって付き合いのある人の数だけ、私たちは分人を持っている。”
としています。
そして、
”誰とどう付き合っているかで、あなたの中の分人の構成比率は変化する。その総体が、あなたの個性となる。
個性とは、決して生まれつきの、生涯不変のものではない。”
ともいわれていて、「本当の自分」はいくらでも変わる可能性のあるものだとしています。
逆に「本当の自分」は一つしかないという考えに固執しすぎると余計な苦しみを強いられるとまで考えています。
つまり性格もいかようにもいくらでもどんどん変わっていくものだと。
確かに、私の中でも色んな自分がいるのを自覚するし環境によって役割によって変わってきた自分がいます。
また、父が脳障害負った時健康時と性格が変わったこともありました。
脳科学的にも(脳に送られる信号の変化によって)性格が変わり得ることからも変化することは理解出来るところです。
では、分人という考え方を受け入れると何が変わるのかというと平野さんは
”私が最も変わったと実感しているのは、他者に対する見方である。自分は、分人の集合体として存在している。
それらは、すべての他者との出会いの産物であり、コミュニケーションの結果である。
他者がいなければ、私の複数の分人もなく、つまりは今の私と 言う人間も存在しなかった。”
と言っていて、そうすると自然と他者に感謝の念や謙虚さも生まれてくるようになる。
そして、例え嫌なことをいわれた場合でもそれは相手の中のある(自分向けた)分人が語っていることであり、それに向き合ってる自分もまた相手仕様に作り上げられた一分人が向き合っているので全人格を否定されるものではないという思考になるわけです。
この考え方、以前の自己観察のお話の記事で書いた「事実と感情と思考は分けて認識する」には役に立つ方法かなと思いました。
平野さんは分人という考え方のおかげで事実を事実として客観視しやすくなり人との距離間を上手くとれて生きていくのが楽になったようです。
さらに
”生きるのをやめたいのは、複数ある分人の中の一つの不幸な分人だと、意識しなければならない。”
”もし一つの分人が不調を来しても、他の分人を足場にすることを考えれば良い。
「こっちがダメなら、あっちがある」でかまわない。”
”好きな分人が一つずつ増えていくなら、私たちは、その分、自分に肯定的になれる。
否定したい自己があったとしても、自分の全体を自殺と言うかたちで消滅させることを考えずに済むはずだ。”
として、自己肯定感を高める思考方法を示唆してくれています。
よく人を変えるより自分が変わる方が楽だといいますね。
確かになかなか人を思い通りに動かすのは難しい。
かといって自分を変えるのだって簡単ではないです。
変わろうって思ったって機械のスイッチ押すみたいにすぐ切り替えられるものではないですし。
ただ、感情、思考、体の反応、行動で自分がコントロールできるのは思考と行動だけです。
思考が変われば行動もおのずと変わる。
だから、行き詰った時には突破口として新たな視点を模索する流れになるんだと思います。
考え方はそれぞれですし、この分人の考え方ですべての困難が解決するわけじゃないと思いますが、
ただ、自分が楽に生きやすくなるための新しい視点の一つになればいいなと思います。
参考:私とは何か 「個人」から「分人」へ 平野啓一郎 講談社